第弐壱拾弐話 崩壊『エンジェルズ・グレイヴ』の大地が突然大きく揺れた。それに伴い、地面に亀裂が走り『エンジェルズ・グレイヴ』の大地を削っていく。 「何だ!?…まさか!」 スノウは反射的に中央の屋敷を見た。途端、屋敷から数人の人影が出てきた後、屋敷は各所から爆発を引き起こし脆くも崩れ去った。動力部が破壊されたのだ。 「ばかな…何故!?」 動力部の部屋にはあの2人と、天使兵を5人ほど残してある。たった3人程度で、こんな短時間に突破されるはずはない。 …あの2人? 「まさか…奴等、裏切ったのか!?」 だが、今更そんな事をいっても仕方が無い。すでに動力部は破壊され、この大地は少しずつ削り取られ崩壊する。となれば… 「…せめて、貴様等だけでも道連れにぃぃぃぃぃぃぃ!!!」 スノウは一度止めた黒刀を再び構え、真っ直ぐにダグとアシャーに突っ込んでいく。 「やめろ!スノウ!」 スノウが放った斬撃をアシャーが光剣で受け止め、止まった隙を狙ってダグが渾身の一撃を放つ。 スノウは寸前のとこで身を引いたが、その斬撃はスノウの右翼を半ばから切り裂いていた。 「ぐぉっ!?…なんのこれしき!!」 スノウが再び一撃を放とうとしたとき、ダグ達の立っていた地面から亀裂が走り、蒼い星をその眼下に覗かせた。 「ダグ隊長!こちらへ!」 上空からダグの部下達が『ワープポータル』を開いてこちらへ来るように呼んでいた。 それを見たダグはアシャーは言う。 「アシャー、そろそ限界だ。脱出するぞ!」 「ああ!」 ダグとアシャーが翼を羽ばたかせ、『ワープポータル』へ飛んでいく。 それを見たスノウが罵った。 「逃げるのか!?貴様等!!」 地を蹴り、凄まじい瞬発力でダグとアシャーに迫ったスノウだが、けん制に放たれたダグの『ホーリーサークル』により黒刀が半ばから打ち砕かれ、破片が虚空に散っていった。 翼を両方とも失ったも同然な状態のスノウに、それ以上ダグ達に追いつくことはできなかった。どんどん距離は離れていく。 だがもう少しで『ワープポータル』に辿り着こうというとき、アシャーの動きがどんどんと鈍くなっていった。 アシャーは久々の天使状態での戦闘によって、体に予想以上の負担がかかってしまっていたのであった。 「アシャー!?」 すでにワープポータルに辿り着いたダグが叫ぶ。 このままでは脱出はおろか、スノウにも追いつかれてしまう。 その状態を見たスノウが好機と見たのか、さっきよりも強く羽ばたきアシャーに迫る。 そしてスノウがアシャーに追いつき、攻撃をするのかと思われたその時。 不意にアシャーの襟首を掴み、スノウは呟いた。 「…これを、地上にいるルゥという人間に渡せ…わかったな?」 そして首についていたネックレスを強引に引きちぎり、呆然としていたアシャーに手渡すと、その屈強な腕力で強引にワープポータルの中に投げ飛ばした。 アシャーの体がワープポータルに入った瞬間、そのポータルは閉じた。 飛ぶ力を使い果たしたスノウは、崩壊していく『エンジェルズ・グレイヴ』の大地に降り立った。 「…これでいい…」 自分の計画は失敗に終わった。いや、成功してはいけなかったのだ。 ただ怒りと憎しみにのみ突き動かされてきたが、こう改めて考えてみると、自分のしてきたそのどれもが愚かな行為に感じてくる。 地上に残してきた恋人のことが気がかりだが、アシャー達がなんとかごまかしてくれるだろう。 そして地面の亀裂から爆発が巻き起こり、スノウの体を包み込んだ。 『エンジェルズ・グレイヴ』が崩壊する様子は、名も無い崩れた塔の最上階からでもその様子を垣間見ることが出来た。 砕かれていった破片が流れ星のように、帯を引きながら消えていく。 「…失敗、ですかね?紅龍様」 クロードがその様子を見ながら呟いた。 「…そうなりますかな、クロード殿。」 クロードは内面、あの自分たちを薄々と嫌っていたと思われる天使…スノウに、密かに尊敬の念を抱いた。 おそらく,彼の死は立派なものであっただろう。 だが、紅龍様…ゼグラムは、そんなことなどどうでもいいかのように『シャドウエンブレム』に見入っている。 同じくしてその様子を見ていた祖龍は言う。 「…彼等ノ行動ガ失敗ニ終ワッタコトハ遺憾デハアルガ…コチラノ方ガ成功シタダケデモ良イトシヨウ」 そして祖龍が紅龍に向き直った。 「…ゼグラム、貴様ノ先ホドノ話、少々興味ガ湧イタ。ソノヨウナ人間ガ、今ノコノ世界ニイルトイウノカ?」 「…その通りでございます。祖龍様。いくら世界の全てを見てきた祖龍様とて、あの人間の心を読むことは難しいことかと思われます。」 「…オモシロイ、ソノヨウニ言ウナラバ…」 祖龍はその真っ白な翼を広げ、言い放った。 「…私ガ自ラ出ヨウデハナイカ、ソノ人間ノ元ヘ」 ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|